焦点の歩はなぜ好手になりやすいのか?

将棋

焦点の歩とは

焦点の歩とは三つ程度の駒が利いているところに歩を打つテクニックである。駒が利いているところに歩を打つのだから当然タダである。にもかかわらず焦点の歩は好手になりやすく、解説でもプロ棋士に「これは手筋ですね」などと言われることが多い。

焦点の歩

タダで駒を渡しているのに好手とはおかしな話のように聞こえるかもしれない。しかし、本記事の解説を読めばなるほどと納得していただけるはずだ。

さて、上の図でいうとまさに3三歩が焦点の歩の手筋である。この歩は桂馬、角、飛車のどれでも取ることができる。が、飛車以外で取れば銀がタダなので飛車でとるしかないわけです。

タダなのになぜ好手なのか

さて、ここでどうしてこれが好手になりやすいのか、数学っぽく論理っぽく、しかし誰にでもわかるように解説していこうと思います。

まず、将棋に関わらずチェスやオセロは初期状態が最も選択肢が多い状態になっています。ただ、手を指すごとにだんだん選択肢(指せる手の候補)が減って最終局面の可能性がなくなっていきます。

要するに、局面が進めば進むほど選択肢が減っていって逆転の可能性が減っていくわけです。

一手指せば絶対に選択肢が減るのかというとそういうわけではない。序盤は選択肢をどんどん増やしていき、その選択肢の中に相手のどんな選択肢に対しても有利になるものがあれば中盤を制することができる!そして、終盤はどんどん選択肢を減らしていって相手の選択肢を0、つまり詰ませれば勝ちなのだ。

選択肢が多いほど強い

さて、局面が進めば選択肢が減ることは先程述べました。選択肢が減るとどうなるの?と当然疑問が浮かぶと思うのですが、実は相手に対して自分だけが一方的に選択肢が減ることは相手に対して不利になるのです。

例えば、トランプで相手よりも大きい数字を出せば勝ちというシンプルなゲームを想定します。また、複数枚同時に出して、その合計で戦っても良いこととします。最終的に勝った回数が多いほうが勝者とします。

このとき「3・4・5」の三枚のカードがあるのと、「12」という一枚のカードがあるのとどっちが有利でしょうか?足せばどちらも12ですが、強さは明らかに違います。

当然、三枚組のカードの方が強いです。なぜなら、相手のカードが2のときには最小限勝てる3をだすという選択肢があるからです。

12のカードしかなければ相手のカードが1でも12を出すしかありません。また、13のカードをだされたときに1のカードで損失を最小限にするということもできません。

このように、選択肢が少ないというのは相手の手に対して臨機応変に対応することができないために弱いとされているのです。

好手と悪手

現在のコンピュータ将棋ソフトはもっともっと難しいことを考えているのですが、好手と悪手とはここまでの話から大雑把に以下のようなものだと考えることができます。

  • 好手
    • 自分の選択肢を広げる手
    • 相手の選択肢を狭める手
  • 悪手
    • 相手の選択肢を広げる手

実戦で見てみる

さて、これは初手7六歩と歩を突き出した場面です。この手は好手でしょうか、悪手でしょうか?

これは言うまでもなく好手です。なぜなら塞がっていた角道が通って角を動かすという選択肢が増えたからです。この程度でしたら数え上げられるので実際に数えてみましょう。

  • 増えた選択肢
    • 7七角
    • 6六角
    • 5五角
    • 4四角
    • 3三角
      • 3三角成
  • 消えた選択肢
    • 7七歩

歩は後ろに下がれないので「この歩を相手がとって持ち駒から再び7七歩打」としない限り7七の地点に歩が戻ることはありません。つまり、歩が7七にいるような投了図がこの時点でほとんどなくなったわけです。

ここだけ見ると選択肢が減っただけのようですが、先程も述べた角道が通ることによって角の選択肢が6つも増えています。

6つ増えて1つ減ったのでトータルで5つ選択肢が増えており、よってこの手が好手だと判断できるわけです。

焦点の歩の効果

では焦点の歩が相手の選択肢にどのような影響を与えたのか考えてみましょう。そのためには、焦点の歩を打つ前の一手前の状態を考える必要があります。

さて、後手は銀を進めて先手陣に攻撃を仕掛けてきました。

次に4五銀などと攻めていきたいのですが、それは3二飛成で飛車がタダなので例えば一度3五歩打として飛車を取られないようにしてから4五銀とでるような手が考えられます。

また、すぐにやると銀を取られてしまうのでできませんが、3三角から1五角のように1筋に角を転換して飛車を睨むような手もあるかもしれません。

3三角からの活用
3三桂からの活用

ところが、この焦点の歩の歩を打たれるとその計画が全てご破産になるのです。

なぜならここまでの後手の企みは一度桂馬か角を3三の地点(焦点!)を経由させなければいけなかったからです。つまり、焦点の歩を打たれる前はこの3三の地点は角でも桂馬でも飛車でも好きな駒が移動できたのですが、先に打たれてしまったことにより「どれか一つ」で取らなければいけなくなってしまったのです。

このように、焦点の歩は相手の選択肢を減らすことができるので好手とされやすいのです。

おまけ

実はこの3三歩には単に選択肢を減らすだけでなく、更に厳しい制約が後手に課せられているのでかなり良い手なのです。

なぜなら、焦点の歩に対して「取らずに逃げる」「取らずに放置する」という選択肢もまたあるからです。

逃げるというのは一般的ですが、放置するというのはかなり難しいですね。相手の歩でこちらの駒が取られてしまうのですから、終盤でこちらの寄せが早いと読みきったときでしか焦点の歩を放置することは厳しいです。このケースでは飛車の頭に歩を叩かれているので、放っておけば飛車が歩で取られてと金を作られた上に、そのと金がまた角に当たっていて、更にそのと金を取ることができないのです。

後手の制約

  • 放置すると飛車が取られる
    • 取られたあとと金をつくられる
    • そのと金が角にあたっているので、放置すれば角が取られる
    • と金を取る手がない
    • 角の逃げ道がない
  • 放置はできない
  • 逃げると3四飛で銀をとられる
    • 銀を取られたあと、2二歩成とと金をつくられる
  • 逃げることはできない
  • 桂馬と角で取るとやはり3四飛で銀を取られる

というロジックから、後手はこの歩を逃げることも放置することもできず、飛車で取るしかないのです。相手の指し手に選択肢がないということは、歩一枚で相手を一手パスさせたのと同じことです。よって、この手は良い手なのです。

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