プロ棋士とは
現在、プロ棋士になるには大雑把にいえば二つの工程がある。
一つはプロ棋士育成団体である奨励会に入会し、四段まで昇段することである。
現在のプロ棋士の99%はこちらの方法でプロ棋士になっているので、こちらがスタンダードな方法といえる。
奨励会に入るには
奨励会に入るには三つの方法がある。
一つはプロ棋士の推薦のもと級位者入会試験を受験して受かる方法である。多くのプロ棋士はこの方法で級位者から入会し、四段まで昇段している。
ちなみに級位者入会試験の合格率は三割程度だとか…
もう一つはアマチュア棋戦で優秀な結果(優勝または準優勝)を経験した上で四段以上のプロ棋士から推薦を受けた上で受験できる初段受験制度である。
級位者入会制度であれば(普通は)六級からしか入会できないのだが、アマチュアで優秀な成績をおさめていればそれらをすっ飛ばしていきなり初段から入会できるというものである。
最後の一つは三段編入試験であり、アマチュア全国大会で優勝者が推薦を受けた上で受験できる。
ただし、この制度で三段リーグに編入したのは総受験者十一名のうちたった一名(現プロ棋士の今泉健司氏)であり、しかもその今泉四段であっても本制度を利用して三段リーグに編入こそできたものの結局三段リーグを抜けられなかった。
しかも、奨励会は年齢制限があり満26歳までに四段に昇段できなければ強制的に退会させられるのである。
実は里見香奈女流五冠も過去に奨励会の入会試験を受け、三段まで登り詰めたが四段に昇段することができないまま年齢制限での退会を余儀なくされてしまった。
このように、奨励会は狭く厳しい門なのである。
フリークラス編入試験
先程、今泉健司四段が三段リーグ編入試験を受けて見事合格したが三段リーグを突破できなかったという話をしたが、疑問に感じられた方もいらっしゃると思う。
「あれ、今泉さんってプロ棋士だよね?」と
では今泉健司氏がどうやってプロ棋士になったかというと、2006年に制定されたフリークラス編入試験に合格したためである。
フリークラス編入試験の受験資格は以下の通り
- アマチュア枠や女流枠から棋戦に出場する
- 良いところを見て10勝以上
- かつ勝率が6割5分以上
- 棋士の推薦が必要
まず大前提として難しいのは、アマチュアがプロ棋士と公式戦で対局することである。
アマチュアの出場枠があるプロ棋戦は竜王戦・叡王戦・棋王戦・朝日杯将棋オープン戦・銀河戦・新人王戦・YAMADAチャレンジ杯・加古川青流戦である。
もちろんアマチュア代表としてプロ棋戦に参加するためにはアマチュア棋戦で抜群の成績をおさめていなければならない。つまり、元々アマチュアとしてトップクラスの成績でなければいけないのである。
更に、一回対戦するだけではなく少なくとも10戦対局しなければいけないのである。トーナメント形式であれば勝てば一つの棋戦でも対局数は増えていくが、それにしたって難しい制約である。
加えて勝率が6割5分ないといけないというのも厳しい。
プロ棋士は170人ほどいるが、2018年度に勝率6割5分を達成したプロ棋士はたったの15人しかいない。
プロですら難しいことをアマチュアがやらなければいけないのである。
苦難を乗り越えて受験資格を得たら、棋士番号の大きい順(最近四段になったばかり)の五名の棋士と対局し、三勝すれば四段のプロ棋士としてフリークラスへの編入が認められる。
フリークラスというのは説明が長くなるので省略するが、要するにこの制度を利用してプロ棋士になるのも容易ではないということである。
里見香奈女流五冠について
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里見香奈女流五冠は女流棋士ではあるが棋士ではない。
通常、棋士とは奨励会や編入試験を経てプロ棋士になった者を指すためである。
そして2019年現在、女性のプロ棋士は未だに一人も誕生していない。
プロ棋士の平均レーティング(強さと思っていただければわかりやすい)が1500なのに対してアマチュア(この場合男性)や奨励会員が1450程度と肉薄する数値を出しているにもかかわらず、女流棋士は1350付近と遅れを取ってしまっている。
ただし、女流棋士の名誉のためにいえばこれでも女流棋士はどんどん強くなってきているのである。
この調子で女流棋士が力をつけてくれば数年以内にプロ棋士に肩を並べるくらい強くなるのはまず間違いないだろう。
ただ、女流棋士のレーティング引き上げに最も貢献しているのは里見香奈氏であるので、ここでは単に氏が力をつけてきただけとも取れるかもしれない…
最近の対戦成績
さて、ここでここ15戦の里見女流五冠のプロ棋士との対戦成績を見てみると以下のようになっている。
対戦相手 | 勝敗 |
矢倉規広 | ● |
中田功 | ● |
島本亮 | ○ |
長沼洋 | ○ |
増田裕司 | ● |
島本亮 | ● |
藤原直哉 | ○ |
澤田真吾 | ● |
大橋貴洸 | ● |
出口若武 | ○ |
浦野真彦 | ○ |
高崎一生 | ○ |
都成竜馬 | ○ |
大橋貴洸 | ● |
有森浩三 | ○ |
畠山鎮 | ○ |
ここで直近14戦を見てみると、9勝5敗であることがわかる。
つまり、次に勝てば10勝5敗となり、10勝以上かつ勝率6割5分というフリークラス編入試験の受験資格を満たすのである。
ちなみに必ず次の対局に勝たなければいけないというわけではない。
フリークラス編入試験の資格を得るのは次のどれかである。
- 次の対局で勝つ
- 次の対局で負けるが、その後三勝一敗
- 次の対局で負けるが、その後四勝二敗
記事によっては三勝二敗などと書いていたりするが、三勝二敗で受験資格を得る時点で次の対局に負けていなければいけないので、ここでは三勝一敗と表記することにした。
次の対局相手は誰なのか
黒田四段か稲葉八段が有力視されている。
黒田四段が本命とされている。
稲葉八段はプロ棋士界の頂点であるA級棋士であるので、これは里見女流五冠だけでなく誰が対局相手であっても苦戦が強いられるだろう。
黒田四段はプロ棋士になりたての新鋭だが、奨励会員時代に三段リーグで何度か対局経験がある。
55回 | 休場で対局なし |
56回 | 休場で対局なし |
57回 | 休場で対局なし |
58回 | 黒田四段勝ち |
59回 | 黒田四段勝ち |
60回 | 対局なし |
61回 | 黒田四段勝ち |
62回 | 対局なし |
見てみると全て黒田四段が勝っており、苦手としていることが伺える。
黒田四段の方は女流棋戦から里見女流五冠の棋譜の研究ができたため対局前から若干有利ではあったというのも影響している。
今回は黒田四段の棋譜についても里見女流五冠が研究できるため、勝敗は全く読めない。
まとめ
対戦成績としては黒田四段戦が濃厚であり、奨励会時代は苦手としているようである。
ただし、現在は里見女流五冠側も黒田四段の研究ができるため状況は対等でどちらが勝つかは全く予想できない。
本人は意識していないとのことだったが、編入試験のことに気を惑わされずに緊張せずに対局して欲しいところである。
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記事は以上。
自身を天才と信じて疑わないマッドサイエンティスト。二つ上の姉は大英図書館特殊工作部勤務、額の十字架の疵は彼女につけられた。
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